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エッセイ

尊い命

2005年4月21日 宮古新報社「島の彩」掲載より

谷川俊太郎さんに「くり返す」という詩がある。

後悔をくりかえすことができる
だがくり返すことはできない
人の命をくり返すことはできない
けれどくり返さねばならない
人の命は大事だとくり返さねばならない
命はくり返せないとくり返さねばならない

戦争で多くの人の命が犠牲にされた悲惨を忘れてはならないとも読める。伊良部住民の考えと行いにも重なる。人の命を大事にし、島への自衛隊誘致を撤回させた理性的判断に心から感謝する。
軍事化は、人の命を枯葉のように軽くする。命を重く考えて、下地島飛行場を軍事に使用させないという県と国が交した確かな契約書「屋良覚書」を今後も続けて、沖縄県全体で大事に守ろう。
宮古島には、伝統的に命を大事にしてきた歴史がある。ドイツの船が遭難した時、上野の人たちは、遭難者の命を救助した。バルチック艦隊が宮古の近海を北上した時、久松五勇士は武器を握らず櫂を握り無線のある八重山にクリ舟サバニを漕いだ。人の命を脅かす重労働の人頭税を廃止させた宮古島住民と新潟出身の中村十作氏の熱意と行動も快挙であった。
備えあれば憂いなし。と言う。しかし、軍事化は、備えあれば憂いあり。である。軍事化されると、早朝から夜まで戦争訓練飛行のヘリコプターやジェット機の押しつぶされそうな爆音に苦悩する。命が犠牲にされるかも知れない墜落の恐怖。爆音で途切れる会話。授業中断。難聴になる耳。乱れるテレビ画像。お母さんのお腹を蹴る子宮の中の赤ちゃん。子供の教育を考え引越しが増える家族。以上のことを私は昨年の夏、嘉手納町で教わった。
想像力を働かせると、美しい自然が汚染される恐れがある。空気、海、空、水、土、海産物、特産物。その収穫と販売、渡り鳥サシバや観光客が減りかねない。北朝鮮、台湾、韓国、中国が警戒する。孤立貿易不振になりかねない。何よりも戦争で人の命が犠牲にされる恐れがある。
過去の事故と死者の魂たちに黙祷。米軍ジェット戦闘機が訓練飛行中にエンジン火災を起こし住宅を巻き込み、うるま(石川)市立宮森小学校に墜落炎上、死者十七名、負傷者二百十名、全焼家屋十七棟、公民館一棟、三教室。半焼家屋八棟、二教室、黒煙が空を覆い住民避難騒ぎの大惨事(一九五九年)、米軍ヘリコプターからトレーラーが落下、道を歩く小学生を圧殺(一九六五年)。
沖国大に米軍ヘリ墜落炎上(昨年八月)現場はバス通りから十㍍も離れていない。隣に駐車場がありガソリン・スタンドもある。周辺に高層マンション、アパート、学生寮、弁当販売店、住宅が密集している。コンクリート校舎の外壁が黒く焦げている。屋上の縁がヘリコプターの回転翼で破壊され欠片が周辺数百㍍に飛散。回転翼の一つがバス通りを飛び越え民家の門を直撃。校舎のケーブル管が切られ熱で変形。割れた窓ガラス。燃えてなお、立ち続ける木の群れ。ヘリ残骸のそばで黒い手袋の人差し指のように天空を差す切断された一本の木の根。
米軍の大型クレーンが到着。機体を吊り上げトレーラーに積む。学生たちがシュプレヒコール。機体にカバーを被せる米兵。トレーラーが動き出し校門を出る。証拠物件の機体を返せ!抗議の学生たちが機動隊と衝突。スピードを上げるトレーラー。追う学生たち。それを追い駆ける機動隊。信号で停止。互いに睨み合う。緊張。
米軍は、墜落現場周辺を一方的に封鎖。県警の検証さえ拒否し証拠物件を持ち去った。不法占拠、人権侵害である。以上のことを私は現場で見た。
ヘリ墜落の原因を米軍はこう報告した。「イラク戦争への対応で三日連続十七時間勤務による睡眠不足など疲労の結果、機体整備が不充分で起こった事故である」
平和を愛する沖縄から戦争訓練の基地は退くべきである。基地や戦争で犠牲にされるのは民衆の命である。命にスペアはない。神が授けた尊い命。感謝し、預かる私たちの胸で鼓動する。神とは愛のことである。愛は愛を生み平和を創る。そして、世界は一つに結ばれる。

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