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エッセイ

愛するとは与える行為

「おおきな木」
  シェル・シルヴァスタイン著 / ほんだ きんいちろう訳

2014年2月2日 琉球新報「晴読雨読」掲載より

今も読み継がれるシェル・シルヴァスタインの詩・絵『おおきな木』(原題『与える木』)は3歳から老人までの絵本である。
「むかし りんごのきが あって…かわいい ちびっこと なかよし。」で始まり、1本のりんごの木が一人の人間に限りない愛をささげる美しくも悲しい物語である。
原題にもある「与える」行為は、聖書の教えの通りである。そして、聖書をベースにした善い作品がたくさん生まれている。『ダンテ神曲物語』、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』『雨ニモマケズ』。エーリッヒ・フロムの『愛するということ』。『おおきな木』もその一つである。
私の大切な友人は、訪ねる度、分厚い本を読んでいた。本は子育ての母のように疲労していた。その本は聖書であった。
肉体労働で生計を立てる友人は葉山嘉樹の短編小説『セメント樽の中の手紙』を私に読んで聞かせ、二人で涙を流した。
ある日は小さなプレーヤーで琉球民謡をかけてくれた。吹き荒れる東京砂漠でサンシンの音を聴くと、沖縄の風景が次から次へと頭の中のスクリーンに映し出された。
澄みわたる青い空、まぶしい太陽、大きな金色の月、天の川、煌めく星たち、南十字星、青、緑、濃紺の透明な海、白い歯を見せて微笑む波、群れて泳ぎ回る極彩色の魚たち、緑のガジュマル、土に握手を求める気根、朝夕の鳥たちの大合唱、年中庭に植わりクリスマス気分にさせるポインセチア、鼻に美味しい夜香木の花、ハイビスカス、ブーゲンビリア、真っ赤なデイゴの花、島の人々の心の温かさを象徴する自然が懐かしくて、沖縄出身の二人は涙がポロポロポロ。
友人は小説家となり世に出た。当時、私は日本橋高島屋の広告デザイナーだった。
友人と私は渋谷の書店に行った。友人は聖書を買って、「読み物としてもいいよ」と私に差し出した。(申し訳ない)と思いながらも私は「ありがとう」と言って受け取った。
黄昏時に自室で聖書を読み始めた。何度も命令され強制され説教される気がしていらいらし、外に飛び出して駅前の酒場に駆け込んでビールを飲んだ。部屋に戻った。聖書が厳しい目で私を叱った。「心を騒がせてはいけません。改心しなさい」。私は目を反らし、耳をふさいでベッドに潜り頭から毛布をかぶった。
40年の月日がたった。聖書は厳格な父であり、優しい母でもある。『おおきな木』はその子ども。子は宇宙と地球を限りない愛で結ぶ存在。愛を与えるりんごの木はキリストである。
与えるとは何か、教えを示してくれた友人に感謝している。

(篠崎書林)




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